あらすじ
地方都市のはずれにある、少しだけ時代に取り残されたような商店街。
シャッターの増えた通り。
それでも朝になればパンの匂いが流れ、
昼には八百屋の呼び声が響き、
夕方には子どもたちの笑い声が転がっていく。
そこに住みついている一匹の野良猫がいる。
名前は――ガブ。
由来は、あくびをしていた顔が「がぶっ」と何かを食べそうだったから。
鋭そうな目つきとは裏腹に、動きはのんびり。
人に媚びず、かといって完全に離れもしない。
商店街という場所に、ふわりと溶け込んでいる存在。
ガブは飼い猫にはならない。
誰かのものにはならない。
けれど、商店街のみんなが、少しだけ「自分の猫」だと思っている。
魚屋の無口な店主。
跡取りに悩む和菓子屋の息子。
夫婦喧嘩の絶えない定食屋。
一人暮らしを始めたばかりの高校生。
毎日同じベンチに座るおばあちゃん。
大きな事件は起きない。
人生が劇的に変わることもない。
けれど、
雨の日に濡れた段ボールの匂い。
冬の朝の白い息。
夏の夜のぬるい風。
夕焼けに伸びる猫の影。
ガブはただ、そこにいる。
人の言葉は話さない。
慰めもしない。
助言もしない。
けれど、誰かが泣きそうなとき、
ふと足元に丸くなる。
誰かが笑ったとき、
少しだけ目を細める。
商店街の一年がめぐるたび、
小さな心の温度が、少しずつ変わっていく。
これは、
一匹の野良猫と、
ゆっくりと時間が流れる商店街の、
100の小さな物語。
読後、胸の奥に陽だまりが残る物語。