あらすじ
𝑷𝒓𝒐𝒍𝒐𝒈_ 『迷い込む声』
夜の街を駆ける。
冷たい風が肌を刺し、街灯の明かりがにじんで見える。
「……颯太!! どこにいるんだよ!!」
息を切らしながら、樹は弟の名を叫んだ。
颯太がいなくなったのは、ほんの数時間前のことだ。いつものように家にいたはずなのに、気がつけば姿がなかった。携帯も繋がらない。友達に聞いても、誰も知らないと言う。
焦燥感が胸を締めつける。最悪の想像が脳裏をよぎった、その時——
「……たすけ…て…」
耳元で囁かれたような感覚に、樹はハッとした。
「颯太……?」
今の声は、確かに颯太のものだった。だが、振り向いても誰もいない。風の音かとも思ったが、確かに言葉になっていた。
——助けて。
もう一度、声が聞こえた。今度ははっきりと。
どこから……? 周囲を見回すと、ある方向に目が止まった。
街の端、森の奥。普段なら絶対に足を踏み入れない場所。暗闇の中に、ひっそりとたたずむ屋敷が見えた。
古びた鉄門は半開きになり、風が吹くたびにギィ……ギィ……と不気味な音を立てている。
直感が告げていた。颯太は、あそこにいる。
樹は一瞬だけ息を呑んだが、迷う暇などなかった。覚悟を決め、門を押し開く。
錆びついた金属の冷たさが指先に染みた。
足を踏み入れた瞬間——背後で門がバタン、と音を立てて閉まる。
「……え?」
振り返ると、そこにはただの暗闇が広がっていた。
まるで、最初からここが外界と隔てられた場所だったかのように——。