あらすじ
大学生の白石澪は、将来を夢見る二十歳の春に拡張型心筋症と診断される。心臓の機能は徐々に低下し、完治はない。余命は「数年」。誰にも言えずにいた澪だが、同級生の神谷陽斗だけは彼女の異変に気づく。
陽斗は病を知っても離れない。「勝手に俺の幸せを決めるな」と告げ、限られた時間を共に生きることを選ぶ。二人は小さな約束を重ねる。海へ行くこと、来年も桜を見ること。だが澪の心機能は悪化し、入退院を繰り返す。夜ごと不整脈に怯え、左心室駆出率は25%まで低下。静かに、確実に、終わりは近づいていく。
やがて冬の夜、心室性不整脈が発生。救命処置もむなしく、澪は陽斗の腕の中で息を引き取る。奇跡は起きない。
一年後。陽斗は約束の海で、澪の遺した日記を読む。そこには「好きでよかった」と綴られていた。喪失に崩れながらも、彼は立ち上がる。愛は人を救わないかもしれない。それでも、誰かを愛した記憶は、生き続ける力になる――。
命の終わりと、残された者の再生を描く、静かな純愛の物語。