あらすじ
「体だけでも、いいですよ」
そう言って、私は大好きな人の「都合のいい女」になった。
夏の夜の結婚式。
片思い相手の幸せに絶望した彼を、パーティドレスと塗りたての口紅で誘い出したあの日から、私の時間は止まったままだ。
季節は巡り、冬になった。
午後九時、彼からの無機質な呼び出し。
落とさずにいたメイクの上に、彼が一度だけ褒めてくれた色の紅を塗り直す。
それは私にとって、彼という「毒」に侵されないための予防薬。
窓の外に雪が舞い、世界が白く染まっていくなか、
私は、「春のあけぼの」を夢見ていいのだろうか。
――夏からずっと、夜に囚われたままの二十八歳。
その執着と孤独が、雪月花に揺れる。