あらすじ
あらすじ:五十年前の十二月、僕の恋人だったグレースは失踪した。戦争難民の密入国や脱走兵の逃走幇助に関わっていた彼女は当局に追われ、国外に逃亡したのだ。彼女の反戦活動に気づかなかったことへの後悔と、彼女の安否を確認できないことへの焦燥で塞ぎ込んでいた僕は、父にすすめられ、遠い南の島を訪ねる。
僕は、島のホテルで、有名な実業家の今井さんと出会う。彼は、未練や後悔を捨てず、人の無事と幸いを祈ることが正しい行いだと、喪失感に囚われていた僕を諭す。今井さんもまた、三年前、奥さんを亡くしていたのだ。
僕は南十字星に祈るため、夜中、ホテルのテラスに出る。小さくて見つけ難い南十字星の発見を助けてくれたのは、突然現れたウミガメのカフーだった。僕はカフーとともに、南十字星に、グレースの無事と幸せを祈る。
十年後、差出人不明の手紙が僕に届く。同封されていたのは、グレースによく似た子供を抱く彼女の写真だった。ウミガメのカフーとともに南十字星に祈ると願いが叶うという島の言い伝えは本当だった。
やがて僕は、「人の幸いを祈って生きる」を信条に、誰とも結婚せず、穏やかな人生を歩む。
独り身のまま古希を迎えた僕は、かつてグレースと二人で星空を眺めた高原に、父から譲り受けた真紅のオープンカーで向かう。
星空に抱かれた高原で、僕は、追憶に浸りながら、独りで古稀を祝おうとしていた。
突然、ウミガメのカフーが現れ、夢か幻か……僕の目の前に、懐かしい島の風景が出現する。
天球が回転し、南十字星が昇る空にグレースの声が響く。
「数え年七十歳、おめでとう」
それは、記憶と祈りが交差する祝祭の瞬間だった。