あらすじ
はじめに
サントクマルク王国に生きる誇りある臣民諸君に向けて、我が輩、カルノク・ディ・フォークは尋ねたい。
諸君らはこの偉大にして歴史深いこの王国について、どれほどの事が語れるだろうかと。
無論、この様な不躾な質問に対し、諸君らは怒りを覚え、さらにその口から多くの事を語るだろう。
神々に選ばれし、偉大なるかの初代王の物語を語る者。王国が三つに割れた三冠時代の英雄達とその終焉を口にする者。
その他諸々の、偉大なる我らが国の物語を、諸君らは語り、そうして受け継いでいるはずだ。そうであれば誇らしい。
だが一方、我々自身についてを語る者は、どれほどいるだろうか?
伝説では無く、偉大では無く、そうしてただ一人の誇るべき臣民としての我々についてだ。
そう、不思議な事に、我々は我々についてをあまり語らない。我々を作りたもうた創造の神々の物語や、先祖となる英雄達の物語に比して、我々は自らの事に沈黙を保つ。
我々が生きている街、仕事、人々の風景を、諸君らは当たり前に思い出せる以上、それを語る機会があまりにも少ないのである。
しかし、誰かが語り、受け継がなければ、それらは失われていくだけである。百年前、我々は何をし、どの様な街並みで生き、暮らしていたかを、鮮明に思い出せる者はいるか? それは正確な景色かと問われ、自信をもってそうだと言える人間を、我が輩は寡聞にして知らない。
故にここに我が輩は、我が輩が生き、暮らしたサントクマルク王国について書き綴ろうと決めた。
百年の後にまた、どこかの誰かがこの王国を思い出せる様に。