あらすじ
魔王討伐から500年。
3000年以上の時を生きるハイエルフの魔法使いフリージアは、かつてただ一人愛した人間の勇者・アルトと、その一族が眠る丘の墓地を、たった独りで守り続けていた。
エルフにとっての500年は、ほんの微睡みのようなもの。
「人間の命など、瞬きのように儚い。いちいち悲しむことなどないのだ」
そう自分に言い聞かせ、冷酷で合理的な賢者を演じることで、次々と先立っていく愛する者たちへの喪失感から目を背けてきたフリージア。
しかし、王都の都市開発の波が丘に迫ったある日、彼女はついに「墓じまい」を決意する。
遺骨に残る魔力を抽出し、『記憶の結晶花』へと変え、彼らが生きた痕跡を淡々と消し去っていく孤独な儀式。
だが、いよいよ最後となる勇者アルトの墓を開けた時、彼女はそこにあるはずのない物を見つける。
それは、寿命で死ぬ直前のアルトが、フリージアに内緒で隠していた「500年越しの手紙」だった——。
『俺にはわかる。不器用で寂しがり屋の君は、ずっとこの墓に縛り付けられてしまうんじゃないかと』
これは、強がることしかできなかった不器用な長寿のエルフが、500年分の涙を流し、過去への執着を手放して再び新しい世界へと歩き出すまでの、美しくも切ない一夜の物語。