あらすじ
怒鳴る客と終電と胃薬だけが友達だった人生は、四十五歳で終わった。
目を開けたら乙女ゲームの悪役令嬢になっていて、王子に公開断罪されている真っ最中だった。 五百人の敵意の視線。泣き崩れる聖女。怒号を浴びせる婚約者。 足が震える。指先が冷たい。逃げ出したい。
けれど二十年間クレーム対応で生き延びた身体は、勝手にスイッチを入れた。
恐れ入りますが、本件の被害届の受理番号をお教えいただけますか。
断罪を手続き不備で空転させた元デパート苦情窓口の統括課長は、なぜか宮廷の紛争調停官に任命される。 与えられた武器は魔法でもチートでもなく、前世で染みついた傾聴と記録と交渉術。 護衛としてついたのは、必要なこと以外一切喋らない無表情の近衛騎士団長。
貴族たちの怒りを鎮め、訴えの矛盾を記録し、一件ずつ案件を片づけていく日々の中で、彼女はあることに気づく。 聖女の被害届には不自然なパターンがある。 断罪の根拠となった報告書には、あってはならない筆跡が混じっている。
記録は嘘をつかない。 それだけを信じて積み上げた帳面が、やがて宮廷の闇に届くのか。
そして隣に立ち続ける騎士が差し出す菩提樹茶の意味に、彼女はいつ気づくのか。