あらすじ
やわらかな境界
君と僕のあいだには
線があるらしい
けれどそれは
地図に引かれた国境のような
はっきりしたものではなく
指でなぞれば
すぐに消えてしまう
体温みたいなものだ
君は言う
「安心する」と
その言葉は
やわらかい毛布のようで
同時に
ゆっくり首を締める
安心の中に
ときめきは棲めるのだろうか
僕たちは長い時間を
共有しすぎた
転んだ日の膝の傷も
帰り道の匂いも
夕暮れの公園の色も
思い出は
恋よりも先にある
だから
「好き」という言葉は
遅れてやってくる
遅れすぎて
置き場をなくす
君がほかの誰かの隣で
少しだけ大人の顔をするたび
僕は
あの頃の続きを失う
幼馴染、という
便利で
曖昧で
壊れにくい名前
その名前の中で
僕たちは
守られていた
けれど
守られているあいだ
選ばれることはない
触れれば届く距離で
触れないまま
季節だけが進む
やがて
やわらかな境界は
気づかないうちに
形を変える
越えたのか
越えられなかったのか
それさえ分からないまま
君の隣に立ちながら
僕は
もう同じ場所にはいない