あらすじ
大正十一年、帝都東京。
女性は法廷に立つことを許されない時代。
没落華族の三女・霧島凜は、帝都法律事務所で「書記補」として働いている。
だが彼女には、誰にも言えない秘密があった。
――死後七十二時間以内の遺体に触れると、
死者の“最後の記憶の断片”が流れ込んでくる。
ある日、老舗呉服商・田村惣右衛門が急死する。
警察は長男による毒殺と断定。だが凜の耳に届いた声は違っていた。
「……梅の香……茶室……わたしは……」
その言葉の奥にあったのは、
「殺されてはいない」という、かすかな否定。
だが死者の声は証拠にならない。
そもそも、女性の言葉さえ軽んじられる時代だ。
凜は帝都随一の若手弁護士・二宮耕介に協力を求める。
最初は半信半疑だった二宮も、凜の論理の鋭さに気づき始める。
死者の断片的な記憶。
茶室に漂う梅の香。
消えた湯呑み。
そして「毒殺」に見せかけられた真実。
能力だけでは辿り着けない。
推理だけでも足りない。
死者の証言と生者の論理が交わるとき、
冤罪は覆る――。
これは、
法廷に立てない少女が、死者の代わりに弁じる物語。