あらすじ
彼女が最初にしたのは、泣くことではなく窓を開けることだった。
前世は不動産会社の内覧会担当。 他人の理想の暮らしばかり演出して、自分の居場所は最後まで持てなかった。
転生先では悪役令嬢として断罪され、たどり着いたのは十年間放棄された廃領地。 空気は重く、建物は朽ち、誰もいない。
それでも彼女は朽ちた壁を確かめ、日当たりを見て、前世の癖で間取りを頭に描いた。
直した家を内覧会と称して開放した日、一人の男が現れた。 名前を聞いても答えない。外套を深くかぶり、部屋を隅々まで確かめて一言だけ残す。 翌朝、軒先には届くはずのない資材が置かれている。
男は何度でも来た。 彼女が家を直すたびに。
この男が誰なのか。 なぜこの土地は見捨てられたのか。 そして彼女がここにいる理由に、誰の意思が関わっているのか。
何も知らないまま、彼女は他人の家ばかり直し続ける。 自分のための間取りだけは、まだ描けないでいる。