あらすじ
王国は長年、「物語」によって秩序を保ってきた。
悪役令嬢を定め、王子が断罪し、ヒロインと結ばれる――
その劇的なカタルシスによって、貴族社会の緊張は浄化され、王権の正統性は再確認される。
今回の舞台もまた、同じ筋書きのはずだった。
王子ライルヒルト。
悪役と目される令嬢ユーフォミア。
そしてヒロイン、リリエル。
三角形の構図は完成している。
断罪イベントは予定通り進行するはずだった。
だが、物語は静かに逸れていく。
日常の中で共有された時間。
他愛ない会話。
甘い菓子を分け合うひととき。
わずかに増えた体温と、ほんの少し丸くなった輪郭。
三人は“役割”の外側で、互いを知ってしまう。