あらすじ

そのとき、背後から甘く低い声が落ちてきた。 「涙、止まんないな?…いいよ。気にすんな。泣け」 ――えっ?! 驚いて振り返る。 けれど目に入ったのは、まるで頑丈な壁みたいな胸板と、私の背に触れかけている彼のネクタイだった。 清潔なスーツの生地が、体温を含んだ空気ごと迫ってくる。 ――ひゃあっ… 大きな影がふっと重なる。 彼の長い腕が、私を囲むように洗面台へ伸びて、両側から逃げ道を塞いだ。 ――こんな存在感…反則… もう、固まるしかない。 触れてもいないのに、全身が彼の気配に包まれて、呼吸が浅くなる。 後ろを向くなんて、とても無理。 心臓が暴れて、胸の奥がじんじん熱い。 助けを求めるみたいに、鏡の中へ逃げる。 そこに映る顔は、さっきとは違う意味で真っ赤だった。 ――こんな顔…見られた?! 羞恥のせいでまた涙がにじむ。 理由なんて、もう思い出せない。ただ、胸がいっぱいだ。 「また…出たな」 シゲさんの声が、耳の後ろに触れる。 「さくらが落ち着くまで…一緒に居てもいいか?」 「?!」 ――…やだ。嬉しい。  彼は、たぶん全部知っている。

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エブリスタ
エブリスタ2026/02/22
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