あらすじ
(冒頭)悪が善を知っているのは、悪がもともと善を経験していたからであるという考えは、人間の倫理を非常に深いところから捉え直しています。一般的に私たちは、善と悪を対立する別々の性質として理解しがちです。善人は善人であり、悪人は悪人であり、その間には明確な境界が存在しているかのように考えます。しかし実際の人間存在は、そのように単純には分かれていません。むしろ悪とは、善を知らなかった結果として生まれるのではなく、善を知っていたにもかかわらず、それを裏切る選択をした経験の中から生まれるものだと考えられます。ここにおいて悪は単なる欠如ではなく、記憶を伴った状態になります。悪を行った者が感じる罪悪感とは、社会的規範を破ったことへの恐れというよりも、本来選び得た別の可能性を自分自身が知っているという事実から生じるものです。つまり罪悪感とは、失われた善の残像であり、自分がどこから堕ちたのかを無意識に理解している証拠なのです。