あらすじ
看護師として三人の娘を育てる日常は、夕暮れ時の交差点で一瞬にして崩れ去った。自らの運転ミスで引き起こした衝突事故。フロントガラス越しに見たのは、電信柱の無機質な姿と、脊髄損傷を負った14歳の長女だった。
一生車椅子生活という医師の宣告。母が自責の念に押し潰されそうになる中、14歳の娘は驚くほど冷静に、そして強く現実を受け止めていた。その強さに背中を押されるように、母は娘の隣で伴走を始める。娘を突き動かしたのは、かつての夢だった「陸上」への未練と、パラアスリートたちとの出会いだった。
「もう一度、競技場に戻りたい」
その一心で、娘は未経験の車椅子陸上、そしてパワーリフティングへと踏み出す。母はスポーツ栄養の資格を取得し、吐くほど練習する娘の「三足の草鞋(わらじ)」を支え続けた。過酷な練習を経て、娘は初出場の大分国際車いすマラソンでメダリストの座を掴み取る。
事故から数年。一人で車に乗ることさえできなかった少女は、今や自走で世界大会を見据えるアスリートへと成長した。二十歳の成人式、家族の手で整えられた晴れ姿を見つめ、母は一つの決意をする。それは、自責に縛られた「お母さん」を卒業し、誰よりも強い娘を支える「一番のファン」として共に生きることだった。