あらすじ

各自で、よろこんで

父が倒れた夜、
病院の白い光はやけに静かで、
私の世界だけが
音を失っていた。

電話口のあなたは言った。
まるで天気の話でもするみたいに。

「これからは親の面倒は各自で見ろ」

その言葉は
刃物よりも薄く、
氷よりも冷たく、
十年の時間を
すっと切り離した。

私は笑った。
崩れないように。
泣かないように。

「はい、よろこんで」

その瞬間、
私は妻をやめたわけじゃない。
ただ、
都合のいい財布をやめただけ。

止めたのはカード。
やめたのは仕送り。
失ったのは、
あなたたちの“当たり前”。

鳴り止まない着信。
困る、払えない、どうして。

どうして?

どうして、私の父の病室より
あなたのランチ代の方が
優先されると思ったの?

どうして、嫁という言葉で
私の人生を
当然にできると思ったの?

「各自で」

その四文字は
あなたの盾だったはずなのに、
いつの間にか
私の鎧になっていた。

私は娘だ。
私は一人の人間だ。
私は、誰かのATMじゃない。

父の手を握りながら思う。
この手は、
私を育ててくれた手。

守るのは当然だ。
よろこんで。

あなたの家族?
どうぞ、よろこんで。
あなたが守ればいい。

崩れたのは生活。
残ったのは本音。

「各自で」

その言葉の続きを
私は知っている。

各自で責任を。
各自で現実を。
各自で、
人生を引き受けて。

そしてもし、
いつかあなたが言うなら

「一緒に背負わせてくれ」と。

その時は考えよう。

今はただ、

各自で、よろこんで。

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アルファポリス
アルファポリス2026/02/21
  • 現在の作品「各自で、よろこんで」