あらすじ
地上は、もうない。
人類最後の生存圏は、地下100層の巨大空洞「アビス」。
第48層で暮らす掃除屋のカイには、記憶がない。名前も、過去も、自分が何者かも。あるのは、どんな致命傷も翌朝には消える不死の体と、毎晩見る「落ち続ける夢」と、目が覚めるたびに唇が勝手に呟く、知らない誰かの名前だけ。
ある日、未踏領域から「何か」が這い上がってきた。
調査のため深層へ降りたカイは、第50層の封印境界で一人の少女と出会う。銀髪の番人レイラ。彼女はカイを見た瞬間、理由もわからず涙を流した。
「——あなたは、これ以上降りてはいけない」
その言葉を無視して、カイは降りる。1層ごとに変わる物理法則。重力が反転する海、時間が止まった都市、概念が生き物になる深淵。そして層を降りるたびに、失われた記憶の断片が、壊れたガラスのように突き刺さってくる。
やがてカイは、この世界の正体を知る。
——アビスの全ての層は、カイ自身の「死」が堆積してできた地層だった。
そして最深の第100層で待つのは、カイの苦しみの記憶をすべて引き受け、世界のシステムに消えた、たった一人の女。
もう一度、彼女の名前を自分の意志で呼ぶために。 世界を敵に回しても、カイは降り続ける。
「お前を失った世界に、意味はない」