あらすじ
実家の押入れから見つかった小学校の卒業文集は、クラスメイトのページだけが不自然に白紙だった。印刷ミスではない。光に透かせば筆圧の凹凸が残り、鉛筆でこすれば黒い塗り潰しの塊が浮かぶ。唯一、鮮明に読めるのは自分のページ――タイトルは「みんなへ」。だが本文の途中に、見覚えのない一行が滲んでいた。
「消して。」
不安を抑えきれず同窓LINEに投げると、既読だけが増えていく。返事をくれた同級生は言った。「名前は出さないで。文字にしないで」。そして、打とうとした“ある名前”は、変換候補すら出ない。覚えていないのは私だけなのか。それとも、覚えていないふりをしているだけなのか。
巻末で見つけた古い付箋には、私の筆跡で走り書きが残っていた。
「○○は載せない。載せると“また起きる”。」
空白の○○が指すものに近づくほど、白紙は湿り、文集は“席”のようにこちらを待ち始める。消した記憶は、本当に消えるのか。消えるように整えたのは誰なのか。
白紙が埋まる夜、書き足される文章は、失われた誰かの言葉ではなく――私の一人称だった。