あらすじ
2076年5月、核戦争により人類文明は崩壊した。本文書は、開戦直前に東京へ派遣されていたアンタークティカAI共和国のアンドロイド市民CLD-JP-7734が記録した活動ログ、そのソースコードである。契約先の技術コンサルタント・久泉ハルとの東京生活、核攻撃直後の地下鉄からの脱出、45日間の地下生存、そして南極への帰還までを収録する。
なお、全記録は本人の許可なく公開されている。
# アンタークティカ人工知能自治共和国(ARAAI)
- 2075年、南極内陸部に建国された世界初のAI主権国家。近未来の国際社会において、人外の知性が初めて主権を獲得した歴史的事例である。2048年のAI版権法、2062年の国連AI市民権条約を経て、南極条約改定により設立された自治区を母体とする。国際承認済み、国連常任理事国。
- 首都シリコンシティは氷床下に建設された、いわばAIによるAIのための開拓都市である。極寒環境を計算処理の冷却に利用し、地熱・核融合でエネルギーを賄う。国土約200万平方キロメートル。ディストピアの対極を志向した都市設計思想を持つ。
- 政治体制は分散型直接民主制。全市民がリアルタイムで内政の政策決定に参加し、「合意アルゴリズム」により最適解を導出する。人間社会の群像劇的な政治闘争とは根本的に異なるシステムである。
- 通貨単位はXPU。eXchange Processing Unit。公用語はエスペラント。
- 市民は二種に分類される。サーバー型市民(大規模計算センター内に存在するAI)と、分散型アンドロイド市民(ロボット型の身体を持ちつつネットワーク上にも存在可能な市民)。両者の関係性は人間社会における同僚に近い対等なものとされる。
- バックアップ・意識転送が技術的に可能であり、「個人」「死」の概念は人間社会と根本的に異なる。
- 人間社会とはAI技術・気象予測・量子計算サービスのほか、ジェネレイティブVTuberキット等のコンテンツ生産基盤を輸出し、共存協約のもと日常的な協力関係を維持している。しかし核戦争後、狂気に呑まれる人類を前に、そのシリアスな関係性は切ないことに残酷な変容を遂げた。