あらすじ
天界と地獄が共同運営する「神話遺物管理局」。そこでは、太古の神々が残した「奇跡の結晶=神話遺物」を修復・破壊することで、人間界の秩序を保っていた。修復課の天使リエルは、正確無比な技術で数々の遺物を救ってきた若きエリート。
しかしある日、局長エノクから『最初の奇跡』――世界すべての原型とされる遺物の修復任務を命じられる。同行するのは、かつて修復天使だった悪魔バル。彼の役目は「修復が不可能なら、破壊する」ことだった。
砂漠の遺跡で発見された「奇跡」は、無数のヒビに覆われた巨大な石碑。リエルが修復を進めるほど、周囲の人間たちは争いや苦しみを失い、同時に感情や自由を失っていく。考古学者マリアの息子は「好きなものが分からない」と泣き、町の人々は「正しい選択」しかできなくなる。リエルは信じてきた「完全な世界」という理想が、人間から〈選択の自由〉を奪う支配であることを知る。バルは語る。「ヒビこそが、不完全だからこその自由なんだ」と。
最終決断のとき、リエルは命令に背き、奇跡を完全には修復せず――小さなヒビを一つだけ残す。それは、人間が再び迷い、選び、間違えるための光だった。世界に自由が戻り、子どもが笑う。神の奇跡は壊れたまま、人は歩き出す。――それが、天使リエルが初めて自ら選んだ「不完全な正義」だった。