あらすじ
第1話:消えないカルテ
佐倉は、もう「普通の看護師」には戻れなかった。
あの診療所事件以来、
彼女のもとには奇妙な相談が届くようになった。
「亡くなった人の声が聞こえる」
「ありえない記録が残っている」
「事故のはずなのに、納得できない」
警察は動かない。
証拠がないからだ。
だが佐倉は知っている。
記録は、嘘をつかない。
ある日、封筒が届いた。
差出人は書かれていない。
中には一枚のコピー。
――病院のカルテだった。
患者名:田村 恒一
死因:心筋梗塞
死亡時刻:22:40
だが、佐倉は違和感を覚えた。
死亡時刻の欄に、
消した跡があったのだ。
「22:10」と書いて、
無理やり40に直したような…。
その夜、またメールが来た。
件名:その人は22:10に死んだ
佐倉は、カルテの病院を訪ねた。
地方にある、小さな総合病院。
受付で尋ねると、
その患者は三年前に亡くなっていた。
「ご家族は?」
「いません。身寄りなしでした」
病棟の看護師は、声をひそめて言った。
「…あの人、亡くなる直前、
“誰かに点滴を変えられた”って言ってたんです」
「誰が?」
「当直医の先生だけ、ですね」
佐倉は薬剤管理室の記録を調べた。
そこにはこう残っていた。
22:05 薬剤交換 医師署名あり
しかし、監視カメラの記録は、
なぜかその時間だけ消えていた。
翌日、佐倉のスマホが鳴った。
知らない番号。
「……あなたが調べているのは、
田村さんのことですね」
男の声だった。
「それ以上、踏み込まない方がいい」
「なぜですか?」
「“二人目”になるからです」
通話は切れた。
その夜、佐倉の夢に、
白い壁が出てきた。
そこに、文字が浮かぶ。
「私は22:10に殺された」
目を覚ますと、
枕元に紙が置かれていた。
それは――
同じ文字で書かれたメモだった。
佐倉はつぶやいた。
「また、始まったんだ…」
彼女は決めた。
この“声”を無視しない。
誰も見ない記録を読む役になる。
それが、
自分に残された役目だと。
⸻
続く
《第2話:改ざんされた死亡時刻》