あらすじ
第7話:00時47分の病室
病院に着いたとき
時刻は――00:38
廊下は消灯され
ナースステーションだけが
青白く光っていた。
「00:47の患者は?」
佐倉は、
夜勤の看護師にカルテを見せた。
「この番号の病室です」
案内されたのは、個室だった。
ベッドの上には、
人工呼吸器につながれた若い女性。
名前:三浦 恒一
年齢:29歳
死因予測:呼吸不全
モニターの波形は、
不安定に揺れている。
佐倉は、時計を見た。
――00:42。
「さっき、
何か変わったことは?」
看護師は首を振る。
「急変はしてません。
でも……」
「でも?」
「この人
さっき突然
“まだ早い”って言ったんです」
佐倉の胸が、強く鳴った。
「誰に?」
「……誰もいない空間に」
00:45
病室の空気が、重くなる。
佐倉のスマホが震えた。
件名:今
本文:
「境目に、
人は立つ」
佐倉は、画面に打ち込んだ。
「止める方法を教えて」
すぐに返信。
「“時刻”を
一度だけ越えさせる」
「どうやって?」
「記録を書き換える」
佐倉は、モニターを見た。
死亡時刻は、
まだ記入されていない。
「……今なら」
彼女は、
看護師に言った。
「この人の記録、
今、更新できますか」
「え?
急変してないのに?」
「お願いします。
“00:46”って
仮で入れて」
看護師は戸惑ったが、
震える手で
キーボードを打った。
――死亡時刻(仮):00:46
その瞬間
モニターの警告音が鳴った。
ピ――――
心拍が落ちる。
「来た……」
だが
完全には止まらない。
「酸素、上げて!」
看護師が動く。
佐倉は、
ベッドの女性の手を握った。
「まだ、
00:47じゃない」
時計を見る。
00:46 → 00:47
……だが、
何も起きない。
心拍は、
弱いが続いている。
00:48
波形が、
少しだけ安定した。
看護師が叫んだ。
「……戻ってる」
佐倉のスマホが震えた。
件名:越えた
本文:
「一度、
境目を越えた」
佐倉は、
震える声で聞いた。
「助かったの?」
「“時刻”からは、
外れた」
病室の時計が、
静かに進む。
00:50
三浦の胸が、
ゆっくり上下した。
医師が駆け込んでくる。
「何があった?」
「……わかりません」
だが
一つだけ確かだった。
“00:47”は、
過ぎた。
その夜、
佐倉のもとに
新しいメッセージは
来なかった。
代わりに
机の上に
白い紙が置いてあった。
そこに
初めて違う言葉が
書かれていた。
「ありがとう」
佐倉は、
目を閉じた。
“時刻”は、
絶対じゃない。
書き換えられるのは、
死だけじゃない。
――運命も、だ。