あらすじ
第5話:観察対象
「あなたの番は、
何時だと思いますか?」
その文字を見た瞬間、
佐倉の喉がひりついた。
背後に立つ研究責任者の男は、
穏やかな顔のまま言った。
「冗談ですよ。
ただの心理テストです」
「……人を実験に使っておいて?」
「“使っている”わけじゃない。
記録しているだけです」
男は机のUSBを指した。
「彼らは、
いずれ亡くなる患者だった。
我々は、その“時間”を
少し動かしただけ」
「動かした結果、
苦しんで死んだ人もいる」
男は黙った。
「南条医師は、
罪悪感に耐えられなかった」
「あなたが、
そうなるように仕向けたんでしょう」
男の目が、
一瞬だけ冷えた。
「彼は、
向いていなかった」
そのとき、
廊下で足音がした。
複数人。
走る音。
「……誰?」
男が振り向いた瞬間、
非常灯が点いた。
赤い光の中、
佐倉のスマホが震えた。
着信:非通知
「もしもし?」
「今すぐ、
その部屋を出なさい」
聞き覚えのある声。
第3話で会った、
南条だった。
「警察が動いています。
あなたが集めた記録、
すでに匿名で送られた」
「誰が?」
「あなたです」
佐倉は息をのんだ。
「……私?」
「正確には、
あなたの端末から。
でも、
あなたは送っていない」
男が叫んだ。
「通信を切れ!」
同時に、
研究室のドアが開いた。
「警察です!」
白衣の男は、
机のUSBを掴んで
逃げようとした。
だが、
佐倉は先に動いた。
USBを奪い、
床に落とした。
「やめろ!」
男が腕を掴む。
その瞬間、
佐倉の視界に、
白い壁が浮かんだ。
そこに、
いつもの文字。
「今」
男は、
その場に崩れ落ちた。
警察に取り押さえられ、
研究室は封鎖された。
後日、
複数の病院で
同様の“研究”が行われていたことが
明るみに出た。
だが、
責任者の男は
取り調べで、
こう言ったという。
「最初にデータを
送ったのは、
“彼女”だ」
「佐倉ですか?」
「いいえ」
「では誰です?」
男は、
微笑んだ。
「死んだ人です」
佐倉のもとに、
最後のメールが届いた。
件名:終了
本文:
「あなたは、
よく聞いた」
その夜、
夢の中で、
壁の文字は現れなかった。
代わりに、
時計の音だけがした。
――カチ、カチ、カチ。
佐倉は目を閉じた。
事件は、
終わったはずだった。
だが、
新しい封筒が
郵便受けに入っていた。
中には、
別の病院のカルテ。
死亡時刻の横に、
小さく書かれた文字。
「00:15」
佐倉は、
静かに笑った。
「……次も、
聞こえるんだ」
⸻
続く
第6話:真夜中の時刻