あらすじ
第3話:沈黙する担当医
南条 恒一――
田村の担当医であり、
死亡時刻を書き換えた張本人。
佐倉は、その男の行方を追っていた。
病院を辞めた後、
彼は突然、消息を絶っている。
住所は残っていた。
山沿いの古い団地。
インターホンを押しても、返事はない。
だが、郵便受けには新聞が溜まっていた。
「……最近まで住んでた」
管理人に話を聞くと、
意外な答えが返ってきた。
「南条さん?
三日前に救急車で運ばれましたよ」
「事故ですか?」
「いいえ……
“自殺未遂”です」
病院を訪ねると、
南条は個室にいた。
顔はやつれ、
点滴につながれている。
佐倉は名乗らず、
窓際の椅子に座った。
「……誰です」
「あなたが殺した人の記録を、
読んでいる者です」
南条の指が、
シーツを強くつかんだ。
「証拠はない」
「でも、書き換えた」
沈黙。
やがて、
南条はかすれた声で言った。
「……最初は、事故だった」
「最初?」
「薬の量を間違えた。
患者は苦しんでいた。
私は…記録を書き換えた」
「それで終わりですか」
「終わらなかった」
南条は目を閉じた。
「“研究”という名目を与えられた。
データを取れ、と」
「誰に?」
「……病院の上だ」
佐倉は背筋が凍った。
「その後は?」
「量を変えた。
少しずつ。
死ぬか、耐えるかを見るために」
「人を、実験に?」
南条は答えなかった。
代わりに、
ぽつりとつぶやいた。
「夜になると、
病室に立つんだ」
「誰が?」
「死んだ患者が。
何も言わず、
ただ時計を指さす」
佐倉は、
あの夢を思い出した。
“22:10だ”
「それで、あなたは?」
「耐えられなかった。
眠れなくなった。
記録を書き換えても、
時計の針だけは、戻らない」
南条の目から、涙が落ちた。
「だから…死のうとした」
その瞬間、
佐倉のスマホが震えた。
件名:次の時刻
本文:
「23:05」
佐倉は南条を見た。
「……あなたが最後ですか」
南条は、首を横に振った。
「私じゃない。
私の後も、続いている」
「誰が?」
「同じことを、
別の病院で」
窓の外で、
救急車のサイレンが鳴った。
南条は、
小さく笑った。
「時刻は、
まだ増える」
その夜、
佐倉は机に向かい、
新しい一覧表を作った。
《改ざん時刻一覧》
22:10
21:45
23:05
それぞれ、
違う病院。
違う患者。
だが、
同じ“やり方”。
壁に、
あの文字が浮かぶ。
「止めて」
佐倉は、深く息を吸った。
「……わかった」
これは、一人の医師の罪じゃない。
仕組まれた実験だ。
彼女は、
次の病院の名前を調べ始めた。
――事件は、
まだ終わらない。
続く
第4話:次の病院