あらすじ
ザールブリュッケン王国とハインスベルク帝国の国境線、ハステット平原。 幾千の兵が血を流し、死臭に満ちたその戦場で、ノイフェルト辺境伯軍は絶望の淵に立たされていた。
兵力の三分の二を喪失。補給線は寸断。王都からの援軍は「独力で戦え」の一言で切り捨てられた。 そして今、最後の防衛拠点が、帝国最悪の傭兵団長エンゲルベルトの手で陥落する。
もう打つ手はない。誰もがそう確信した、その時――。
「傭兵だ。仕事を求めてここへ来た」
名も出自も持たない黒衣の男・クロウが、敵将の生首と帝国軍の機密書類を手土産に現れた。 報酬は求めない。感情も見せない。ただ一人で三百人の傭兵団を壊滅させた、人の形をした何か。
「強い側につく傭兵は腐るほどいる。弱い側でこそ、一人の人間が戦場を変えられる」
救世主か、それとも新たな破滅の種か。 知将ドレーゼの警戒と期待が交錯する中、詰みの盤面に落とされた一つの駒が、やがて世界そのものを揺るがす巨大な動乱の引き金を引く。
――空には一羽の漆黒の鴉が、すべてを見下ろしている。