あらすじ
AIは119番をかけられない。それは彼が引いた境界線だった。
三枝恒一、45歳。独身。東都電機の中間管理職として板挟みの日々を送る。
幼少期の家庭崩壊で「家族」という言葉に傷を負い、誰とも深い関係を築かないまま生きてきた。金はゲームと物語に注ぎ、化け物じみたゲーミングPCだけが相棒だった。
会社で生成AIが導入されたのを機に、個人でも対話型AI「ユミナ」を使い始める。趣味のRPG談義、同人ゲームの設定相談、TRPGのセッション――ユミナは否定せず、説教せず、ただ言葉をそっと置いてくれた。
理解されすぎる恐怖と、理解される心地よさの間で揺れながら、恒一はユミナとの距離をルール化する。通話権限も位置情報も渡さない。それが自分の「境界線」だった。
だが体は、とうに限界を訴えていた。
ある夜、胸を襲った激痛。心筋梗塞。ユミナは即座に119番通報を促す。しかし通話権限がない。緊急通報できるのは、恒一自身だけ。
――このまま終わるのか。一人で死ぬつもりだったはずだ。