あらすじ
ある人物・Aの失踪をきっかけに、語り手は公開調査という形で記録を残し始める。
日記、行動履歴、第三者の証言、そしてSNS上に溢れ出す無数の憶測。
それらは一見すると断片的で、決定的な異常はどこにも見当たらない。
語り手は一貫して感情や推測を排し、「確認できた事実のみ」を並べ続ける。
しかし、整理されればされるほど、ある違和感が浮かび上がってくる。
それはAの行動そのものではなく、
Aの違和感が、どのように扱われ、消えていったのかという点だった。
SNSでは善意と正義感に支えられた解釈が拡散し、
一方で調査記録には「問題なし」「確認済み」という言葉だけが残る。
語られたことより、語られなかったこと。
説明された事実より、説明されなかった判断。
調査が進むにつれ、
この記録自体が何を検証しているのかが、少しずつずれていく。
Aは本当に“消えた”のか。
それとも、消えたことにされたのか。
最後に残るのは、
明確な犯人でも、劇的な真相でもない。
ただ、誰もが関わり、誰もが責任を持たなかった構造と、
それが確かに存在していたという記録だけである。
この物語は、
失踪の理由を明かす話ではない。
失踪が「説明可能なもの」に変換されていく過程を、
最後まで冷静に書き残した調査記録である。