あらすじ
婚約破棄の翌朝、伯爵家の門前に現れた男が差し出したのは、三百年前の日付が入った借用書だった。金貨五十枚。貸主はクロード。借主の欄には、自分と同じ名前。
取り立てだと言う男を日当銅貨三枚の荷物持ちに雇い、身分の通用しない辺境の港町へ向かう。前世の手が覚えている調香の技術だけを頼りに小さな工房を立ち上げると、男は倉庫を直し、薬草を運び、仕入れ先を紹介し、黙って隣に立ち続けた。
借金の取り立てにしては献身的すぎる。旅の商人にしては人脈が広すぎる。寝言は古い時代の言葉で、目だけがずっと遠くを見ている。
この人の「取り立て」は嘘だ。三百年分の嘘の奥に何があるのか、私はもう気づき始めている。