あらすじ
馬車が揺れるたびに、鎖が鳴った。
両手首に嵌められた魔力封印の枷は、冷たく重く、まるでこの状況を全身で嘲笑うかのように皮膚に食い込んでくる。窓のない木箱のような車内には、わずかな明かりすらない。揺れるたびに腐った木材の軋む音がして、今にも崩れ落ちそうだった。
――これが、皇族の扱いか。
カイン=アルガニアは、薄暗い馬車の中で静かに目を閉じた。
十五歳。帝国に十三番目の皇子として生を受け、「無属性」の烙印を押され、本日付けで辺境の廃棄都市《ダストエンド》への追放が決定した。謁見の間で父帝が告げた言葉は、今も耳の奥にこびりついている。
「ゴミに相応しい場所で朽ち果てよ」
廷臣たちは笑っていた。兄たちは蔑んだ目を向けた。母は――もういない。
まるで堰が切れたように、波濤となって押し寄せてきた記憶。別の世界の、別の人生。名前は――そう、鈴木誠一。享年二十九歳。日本の大学で素材工学を研究していた。セラミック系の新素材開発が専門で、論文の締め切りに追われながら、気づけばコンビニの前で倒れていた。
過労死、だったらしい。
前世の記憶が戻ったとき、最初に気になったのは感情ではなく、指先に宿った妙な感覚だった。枷を嵌められた手のひら。その内側で、何かがうずいている。
試しに、床に落ちていた木片に触れてみた。
その瞬間――世界が、変わった。
〈元素分解:起動〉
どんなゴミだろうと力に変えてやる。