あらすじ
○月×日(△)
どんな悪霊でも飛んで逃げるような雲一つない晴天の中、私は目的の場所を目指していた。
初夏とはいえこんな山奥では地面から照り返す熱がねっとりと張り付くように汗を誘ってくる。蒸し暑いのは嫌いだった。
山道を登り、林業関係者しか使わないような道を古びたスロープをつたいながら歩く。
時刻は五時を回った。まだ空は明るく、ふと紅に染まる太陽を木が伐採された場所で拝むことができた。
太陽は、木、山、空、世界すべてを赤く包んでいた。もちろん私をもだ。
太陽を見上げた時、視線を下に移す。麓の町が赤く染まっている。すべて太陽に支配されているようだ。
今日を最後に太陽を見る日は二度と来ないと、私はどこかで感じていた。言葉で言い表せない焦燥感に襲われていた。
獣の感と言えばいいのだろうか。現代の人間が失ったというあの感覚を、この山に入った瞬間取り戻したような錯覚を覚える。
ともあれ、すべてが杞憂に終わってくれることを私は切に願う。一晩、たった一晩確かめるだけでいい。何事もなく帰ってこれれば、それでいい。
───捜索中に発見された遺留品より抜粋。