あらすじ
煩悩の塊、堕落の権化とまで言われた男・景司は、自らの空虚な人生に限界を感じ、寺の門を叩いた。住職に勧められたのは、護摩行と滝行。しかし幼い頃から寒さと水に恐怖を抱いていた景司は、滝に打たれることなど想像するだけで震えた。彼は逃げずに進むため、銭湯の打たせ湯から始め、プールで水に慣れ、少しずつ恐怖と向き合っていく。その過程で、忘れていた記憶や、逃げ続けてきた自分自身の弱さを見つめ直す。そしてついに滝の前に立ったとき、彼は過去の自分、家族の声、置き去りにしてきた心と対面する。滝の中で彼は何か特別な力を得たわけではない。ただ逃げずに立ち続けただけだった。しかしその瞬間、自分から逃げないという、たった一つの確かな感覚を手に入れる。山を下りる景司の前には、以前と同じ世界が広がっていた。だが彼の中には、もう逃げないという静かな覚悟が芽生えていた。これは奇跡の物語ではない。弱いまま、それでも前に進む、一人の人間の再生の記録である。