あらすじ
「おめでとう。あんたもようやく私の『後輩』ね」
T大学理科一類に補欠合格した高橋凜花、十八歳。不合格から追加合格まで、十六日間の地獄を越えた春、姉・彩花はニューヨークへ発った。
彩花が残したのは、一つの告白だった。中学三年生のとき、ミネアポリスの学校で目撃した強姦事件。友人を守るためにナイフを奪い、加害者の太ももを刺した。その夜から、彩花の感情は凍りついた。
だが、彩花がミネソタで動かした手は、それだけではなかった。
母・高橋優子だけが知っている。二人は「墓場まで持っていく」と誓った。
彩花はいま、ニューヨーク・マウントサイナイ病院付属医科大学院で「性ホルモンによる男性暴力性の化学的制御」を研究している。同意なしに。強制的に。倫理的に問題があることは、わかっている。それでも彩花は手を止めない。
凜花はまだ、何も知らない。
姉の研究課題の本当の動機を。母が抱える秘密を。そして、あの夜ミネアポリスで何が起きたのかを。
T大の講義室で物理学を学びながら、凜花は少しずつ、姉という人間の輪郭に近づいていく。