あらすじ
カマキリの体内に寄生するハリガネムシの如く、僕はハラワタの隅から隅までキミに心酔したい。
最初にそう思ったのは、秋の終わりだった。
綿花畑の白い房が、まるで雲の残骸のように風に揺れている午後。
キミはその中に立っていた。
白い綿花に囲まれているせいか、キミの輪郭はぼやけて見えた。
遠くから見れば、畑の一部のようだった。
植物の中に、人間がひとつ混じっているだけの風景。
僕はそれを、しばらく眺めていた。
綿花の白は、柔らかそうでいて、どこか空虚だ。
中身をすべて吐き出して、外側だけになった内臓のように見えることがある。
だからだろうか。
その景色の中で笑うキミを見たとき、僕は妙なことを考えた。
もし僕が虫なら。
細く、硬く、静かな虫なら。
キミの身体のどこか、目に見えない場所から入り込み、
神経の間をすり抜けて、
血のぬるい流れに沿って、
キミの奥へ奥へと進めるだろうか。
ハリガネムシのように。
宿主を水へと導くあの寄生虫のように、
僕はキミをどこかへ連れて行けるだろうか。
あるいは逆かもしれない。
気がつけば僕の方が操られていて、
知らないうちに歩き出して、
綿花畑の奥へ、奥へ。
白い房が風に揺れるたび、
世界がやわらかくほどけていく。
キミは振り返り、言った。
「どうしたの?」
その声を聞いた瞬間、
僕は理解した。
寄生されているのは、きっと僕の方だ。
キミは何もしていない。
ただそこに立って、笑っているだけだ。
それなのに僕の思考は、
ハラワタの隅から隅まで、
ゆっくりと、確実に、キミに占領されていく。
綿花の白が風に舞う。
空っぽの内臓みたいな、
柔らかな繊維の雲。
その中で僕は、
静かに、幸福な寄生を続けていた。