あらすじ
深夜のベランダで、自分の影が「いつもより濃い」と気づいた夜から、それは始まった。
鏡の中の影が、一瞬だけ遅れる。壁の影が、勝手に動く。枕元に、見知らぬ長い黒髪が一本。防犯カメラには、同じ顔をした二人の自分が映っていた。
在宅ワーカーの矢島悠人、32歳。人付き合いが苦手で、夜型で、部屋の電気をほとんど消さない男。彼を蝕んでいくのは幽霊でも怪物でもなく——ずっとそこにいた、もう一人の自分だった。
見えているものは、本物か。見えていないものは、何なのか。
影は答える。お前が殺したかったものだ、と。お前が捨ててきたものだ、と。