あらすじ

映像ディレクターの野口渉は、スタジオの廊下でひとりの若い女優と短い言葉を交わす。 「自分しか顔を履いていないので」 その台詞だけが、帰宅したあとも渉の中に残った。 数日後、過去に手がけた映像が賞にノミネートされ、その映像に一瞬だけ映り込んでいた女優・朔田玲への使用確認が必要になる。名前を知る前に顔を見て、顔を見たあとで名前を知る。仕事として始まった接触のなかで、渉は玲の輪郭に触れた気がする。だが近づくほど、「知っている」と「分かっている」のあいだの距離だけが、はっきりしていく。 期待に応え続けることで見られてきた女優と、見る側に立つことで自分の輪郭を曖昧にしてきた男。 承認が増えるほど、「自分」への承認はゼロに近づいていく。その構造の中で、ふたりがどこまで相手に届けるのかを、静かにたどる現代恋愛小説です。

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小説を読もう2026/03/11
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