あらすじ
五年間愛し続けた婚約者・白石奈緒との結婚式まで、残り四ヶ月。式場も決まり、招待状の文面まで考えていたある夜、蓮は会社の駐車場で偶然目にしてしまう。奈緒と、自分の直属の上司・黒沢翔太が、車の陰で寄り添う場面を。
調べ始めた蓮が知ったのは、想像を絶する事実だった。二人の関係は交際半年後にはすでに始まっており、奈緒が黒沢に送り続けていたメッセージには、蓮への嘲りが溢れていた。「出世も見込みもない平凡男」「一緒にいるだけで退屈」「早く捨てたい」――五年間、笑顔の裏でそう思われていた。
さらに残酷だったのはここからだ。
証拠を集めていることに感づいた黒沢は、上司の権力を使って蓮を追い詰めにかかった。不当な査定の引き下げ。主要プロジェクトからの排除。同僚たちへの根回し。蓮は職場で孤立し、社内の居場所を一つひとつ奪われていった。恋愛でも、仕事でも、同時に地獄に落とされた。
それでも蓮は声を荒げなかった。
泣かなかった。怒鳴らなかった。ただ静かに、すべてを記録した。
そして半年後――黒沢の長年にわたるセクハラと経費横領が、社内の内部告発システムに一括で提出された。証拠は完璧だった。会社は動き、黒沢は全権剥奪の末に依願退職へと追い込まれた。
後ろ盾を失った奈緒は、蓮の前に現れ、涙ながらに言った。
「やり直したい」
蓮はかつての婚約者を見た。五年間、笑顔で嘘をつき続けた女を。
そして微笑んだ。