あらすじ
【王宮の奥、白銀の檻】
王国の守護獣として祈りを受ける「聖獣」。その正体は、呪いによって巨大なうさぎの姿へと変えられた、第一王子・アルフレートだった。
喉は人の言葉を失い、骨を軋ませる呪いの激痛に、ただ独りで耐え続ける日々。
そんな彼の元に現れたのは、一人の不遜な飼育員、エルン。
エルンは、誰も気づかなかったアルフレートの「痛みを隠す短い呼吸」を見抜く。
「怒ってるわけじゃない。……痛いんだな」
【禁忌の接触――指先の調律】
聖獣に素手で触れることは、王宮の絶対的な禁忌。だがエルンは迷わず手袋を外し、その指先で白銀の毛並みに触れた。
その体温は、冬の鉄のように冷えきった呪いを、ほんの少しだけ溶かしていく。
孤独だった王子は、初めて「甘える」という降伏を知る。やがて大きな頭をエルンの膝に預けたとき、二人の間に「共犯」という名の絆が生まれた。
しかし――王宮の影に潜む黒い悪意と、限界を迎えた呪いが、穏やかな「調律」の時間を暴力的に引き裂く。
黒霧に飲み込まれ、理性を失いかけるアルフレート。エルンは傷つきながらも、その名を呼び続ける。
夜の檻の中で交わした、たったひとつの約束のために。
――アルフレート。
その名が、闇を裂いたとき。
二人が朝日の中で呼び合った「本当の名前」とは――。
凍てついた心と体を体温が溶かす、孤独な王子と不遜な調律師が出会う、切なくも美しい救済の物語。