あらすじ
「この水槽(へや)が割れるとき、私たちは窒息する」
都心の高級マンション、愛情のない夫、完璧に整えられた静寂。
主婦・麻衣子の日常は、観賞されるためだけに用意された、温度の一定な水槽だった。
その透明な壁を叩き割り、彼女を剥き出しの熱情へと引き摺り出したのは、新進気鋭の建築家・健司。
二人は世間から隔絶された「密室」という名の水槽で、互いの体温だけを酸素に、溺れるような愛を重ねていく。
しかし、その聖域を濁らせる、一滴の毒。
健司の側に現れた若い助手・莉奈。
彼女の指先に灯る「赤いネイル」が、二人の隠れ家のドアを執拗にノックし始める。
「私にも、その水槽の中を見せてほしい。三人で、この遊びを続けましょう?」
暴かれる秘密、届けられる不穏な写真、そして崩れ去る日常の仮面。
莉奈という「毒魚」に侵食され、愛は次第に狂気へと変質していく。
追い詰められた麻衣子が最後に選んだのは、自らガラスを叩き割り、氷のような冬の海へと身を投じることだった。
誰の目も届かない最果ての地で、二人は最後の一息を分け合う。
不倫という閉塞的な愛の極北を描く、衝撃の官能サスペンス。
――たとえ、その自由が死へと繋がっていても、私たちはもう、この場所でしか息ができない。