あらすじ
高校二年生の中村颯太は、三ヶ月前からずっと同じ夢を見ている。
雨に濡れた見知らぬ商店街。石畳の路地。そして、傘も差さずに空を見上げている女の子。颯太が近づこうとするたびに、夢は終わる。
同じ頃、佐藤詩もまた、毎晩同じ夢を見ていた。雨の商店街に立つ男の子。声をかけようとしても、雨の日は声が消える——詩の体に宿る不思議な体質のせいで、夢の中でさえ言葉が届かない。
ふたりは夢の中で出会いながら、三ヶ月間、一度も声を交わせなかった。
そんなある日、颯太は学校の屋上で詩を見つける。名前も知らない、でも確かに知っている——夢の中にいた、あの子だ。
その日は雨だった。詩の声は、なかった。
翌日、晴れた空の下でふたりはやっと言葉を交わす。名前を教え合い、夢の話をして、三ヶ月越しに「届いた」と感じる。
それからふたりは、昼休みの屋上で少しずつ時間を重ねていく。颯太は詩の体質を知り、雨の日でも隣に立つことを選ぶ。詩は誰にも話せなかった秘密を颯太にだけ打ち明け、初めて「好きかもしれない」と気づく。
夢で出会い、現実で近づいていくふたり。声が届かなかった日々と、届いた瞬間の温度を丁寧に描く、静かな純愛の物語。
【登場人物】
☆中村颯太(なかむら そうた)……高校二年生。三ヶ月間、雨の商店街の夢を見続けている。夢のことを誰にも言えずにいたが、屋上で詩と出会い、初めて打ち明ける。
☆佐藤詩(さとう うた)……高校二年生。雨の日だけ声が消えるという不思議な体質を持つ。夢の中でも言葉が届かなかった颯太と、現実で出会う。