あらすじ
「会いたいなんて、叫んだって届かない。だから、俺はハンドルを握るんだ」
2月。マイナス20度の根室・花咲港。
吐き出す息すら凍る夜明け前、25歳の俺は40トンの相棒に鮮魚を積み込む。
行き先は、春の気配が揺れる街、大阪。
シルバーフェリーの船底で、エンジンの鼓動を子守唄に一人眠る。
豊洲で100ケースの荷を下ろし、朝日を背に受けて東名を西へ。
法規に守られた「430休憩」の静寂だけが、俺が「男の城(キャビン)」で、吹田サービスエリアで働く大学生・華恋(かれん)を想える自由な時間だ。
凍りついた北の大地から、夜を徹して、一秒でも早く。
鮮度を保ったまま届けたいのは、この魚だけじゃない。
ハンドルの遊びに隠した、不器用で真っ直ぐな俺の恋心。
「仕事だから行くんだ」って、自分に嘘をついた。
本当は、君の「お疲れ様」が聞きたくて、2000キロの孤独を走り抜ける。
時速90キロで駆け抜ける、世界で一番遠くて、一番近い片思い。
この最終便が届くとき、俺たちの冬は終わるだろうか。