あらすじ
名門貴族の姫として生まれた少女・凍花。
実母を早くに亡くし、父に愛される義妹と義母のもとで、彼女は静かに尊厳を削られて育った。
母の形見である一本の柘植櫛だけを胸に秘め、凍った花の名を与えられた姫は、やがて「水」を操る力を持つ少女へと成長する。
一方、人ならざる力「破壊の火」を宿し、生まれながらに“鬼”と恐れられてきた名もなき少年。
彼は人から拒まれ、名を持たず、孤独に生きていた。
二人は出会い、互いを
「月」と「太陽」と例え合う。
闇を照らす月と、世界を焼く太陽。
身分も境遇も違う二人は、追われるように都を捨て、名を変え、
水月と旭火として夫婦となる。
小さな村での慎ましくも幸福な日々。
拾われた孤児・光輝を子として迎え、やがて新たな命を授かるはずだった未来。
しかし、過去は彼らを許さなかった。
水月の美しさと存在は、帝となった皇太子と、その妃である義妹の嫉妬を呼び、
放たれた刺客の刃は、水月と生まれるはずだった子の命を奪う。
最愛を失った旭火は、人としての理性を失い、
世界が恐れ、蔑み、拒み続けた存在――**真の「鬼」**となる。
鬼は叫ぶ。
「俺を鬼にしたのは誰だ」
「奪ったのは誰だ」
破壊の果て、鬼は討たれる。
その最期に現れたのは、涙を浮かべ微笑む妻。
「おかえりなさい、旭火」
鬼は、ようやく人に戻り、息を引き取る。
その懐には、歯の欠けた一本の柘植櫛があった。
すべてを見届けた将軍は問い続ける。
――彼を鬼にしたのは、誰だったのか。
愛か。
憎しみか。
力か。
それとも、人の社会そのものか。