あらすじ
深夜の街を走る一台のタクシー。
そのメーターは、距離だけでなく“別の料金”も静かに刻んでいる。
相馬彰、タクシー運転手。
夜の深淵で生きる彼は、裏の世界では名の知れたタクシー会社に勤めているわけありのドライバー。
相馬は表向きは無事故無違反、愛想も悪くない運転手。だが常連客の一部は知っている。
このタクシーでは「乗車」以外の取引が成立することを。
取引は多岐に渡る。薬物、拳銃、偽造品、盗難品、そして情報。時には“人の弱み”そのもの。
相馬はそれを運び、渡し、何も聞かなかった顔で夜を走る。
所長の榊原はすべてを知っているが、決して口を出さない。同僚たちもまた、それぞれ別の闇を抱えている。
変わり者の若手、家族持ちの中年、生きることに冷めた女、そして七十を超えたベテラン。
彼らは仲間でもあり、いつ裏切るかわからない他人でもある。
酔ったサラリーマン、水商売の男女、政治家から芸能人、裏社会の売人、警察に近い人間とヤクザ……。タクシーの後部座席で交わされる会話は、街の裏側をそのまま映し出す。
やがて相馬は気づき始める。
自分が売っているのは“物”ではなく、
社会からこぼれ落ちた人間たちの逃げ道なのだと。
だが逃げ道には必ず出口がある。
警察、組織、そして会社内部の思惑。
メーターが回り続ける限り、ある事情を抱えた相馬もまた走り続けなければならない。
正義も救いも約束されない場所で、
それでもハンドルを握り続ける人間たちの、静かな夜の記録である。