あらすじ
王都の空が白むより早く、王立迎賓館の地下リネン室でエレオノーラ・フォン・ノイマンの一日は始まっていた。
「今日の湿度は六十五パーセント。南風が吹くから、東棟のテラス干しは中止して屋内乾燥室の魔石炉を微火で焚いて。西風の国の使節団には、故郷の乾燥した空気に近いパサリナ織のシーツを。柔軟剤は入れず、アイロンの熱だけで繊維を立たせて」
エレオノーラの澄んだ声が、湯気と石鹸の香りが立ち込める地下室に響く。 女官たちが一斉に動き出す。エレオノーラの手元にあるのは、使い込まれた分厚い「リネン管理台帳」だ。ページには何百種類もの布端のサンプルがクリップで留められ、賓客の肌質、香りの好み、アレルギーの有無、そしてシーツの洗濯回数と摩耗状況がびっしりと書き込まれている。
絹、麻、綿。布は生き物だ。天候や湿度によって洗い方を変え、客人の体調に合わせて肌触りを調整する。五回洗った麻は柔らかいが、十回洗えば強度が落ちる。その摩耗のサイクルを完璧に計算して各部屋へ配分し、常に最高の睡眠環境を提供する——それが、迎賓館の筆頭管理官であるエレオノーラの仕事だった。
「エレオノーラ! こんなカビ臭い地下室で何をしている!」