あらすじ

アニメのキャラクターの顔は、なぜ「白人に見える」のか——。 2024年秋。中堅アニメスタジオ・彩映社は、米国の配信プラットフォーム・ストリームノヴァとの初の共同制作アニメ『パラレリズム』に着手する。キャラクターデザイナーの上條美鶴は、原作漫画家・柘植周一の画風を活かしたデザインを完成させ、海を越えてデータを送信した。上條にとって、それは「完璧なデフォルト」だった。目の大きさはキャラクターの感情表現に基づく設計値。多彩な髪色は白黒原稿からカラーへの翻訳。白い肌は「白い」のではなく、何も塗っていないだけ。日本のアニメの文法に則った、当たり前の顔。 しかし、ストリームノヴァの「文化的感受性レビュー」は、その顔に別の意味を読み取った。肌のトーンが均一に明るいこと。瞳が大きすぎること。日本人設定のキャラクターに金髪が含まれていること——「白人性の無意識的再生産」の懸念。 窓口を務める日系三世のキャサリン・ヤマモトは、日本のアニメへの愛情を持つ誠実な人間だ。しかし彼女の分析の枠組みは、UCLAのメディア研究で形成されたものであり、日本の視覚文化の「文法」そのものには届いていない。担当編集の早瀬貴之は、この問題の構造を誰よりも明晰に言語化できる。しかし、言語化できることと解決できることは同じではない。原作者の柘植は「自分の子供の顔を変えろと言われている」拒絶感を、沈黙の中に溜め込んでいく。 誰も悪意を持っていない。全員が自分の立場で誠実に振る舞っている。しかし、その誠実さの集積が、クリエイターの表現を静かに侵食していく。「記号」と"symbol"は同じ辞書の項目に載っているが、同じ概念を指していない。通訳は言葉を訳せても、認識の前提を訳すことはできない。 日本のアニメーターが「デフォルト」と呼ぶもの。その「デフォルト」が問われた瞬間に何が壊れるのか。

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カクヨム2026/03/09
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