あらすじ
帝国の北端、塩雪辺境州。そこでは毎年、冬が来るたびに人が消える。
飢えたからでも、魔物に食われたからでもない。帳面の上で「存在しなかった」ことにされた者たちが、静かに死んでいくのだ。
元・州都の下級書記官アシュレイ・ヴェルンは、徴発記録の改竄を告発した罪で処刑台に送られた。だが処刑は未遂に終わり、代わりに死者を埋めるだけの辺境監査小屋へ左遷される。
そこで彼が触れた一冊の死簿は、記録から削られた名前と、死の原因に繋がる赤い欠落を浮かび上がらせた。飢え、凍傷、薬の横流し、徴発のごまかし。世界は怪物だけで壊れるのではない。人を数えるはずの制度そのものが、人を殺している。
読み取れるのは欠落と因果の断片だけ。剣も魔術も強くない。読めたからといって、すぐ誰かを救えるわけでもない。
それでも、死簿に載らない死を見た以上、見なかったことにはできない。
これは、死者の帳面を読むしか能のない書記官が、辺境で人が消される仕組みそのものを暴き、小さな保全を積み上げていく物語。