あらすじ
黒瀬徹、五十四歳。独身。元・地方自治体窓口職員。趣味は刑事ドラマの録画消化、好物はコンビニの唐揚げ棒。どこをどう切っても冴えない中年男が、ある朝突然気づいた。
――俺、人間じゃない。
正確には「人間だけじゃない」。几帳面な元公務員らしい表現の訂正を経て、黒瀬は落ち着いて現実を受け入れた。自分の本質は「業魔」――人の生命力を喰らい、強くなる悪魔の上位種だと。
動揺はなかった。手帳を開き、箇条書きで今日やることを整理しただけだ。
問題は、誰の生命力を奪うか、だ。
善良な人を襲うのは何かが違う。本能がそう言っている。ならば、悪い奴ならいいのではないか。新聞の三面記事、テレビの特集、地域の噂話。世の中には、法の目をかいくぐりながら他人を踏みにじって生きている人間が、思いのほか多い。
「悪者から順番に」。
こうして五十四歳の悪魔は、几帳面に、地道に、静かに動き始めた。仕事を辞め、田舎の古民家に拠点を移し、情報収集に力を注ぎながら、一人また一人と「浄化」していく。狩られた者たちは突然死や原因不明の衰弱で逝き、誰も真相に気づかない。
力が蓄積するにつれ、体は若返り、飛行や瞬間移動が可能となり、やがて異世界への扉まで開いてしまう。
辿り着いた先は、冒険者とスキルとモンスターが跋扈するファンタジー世界。そこでも悪者は悪者だ。腐敗貴族も奴隷商人も、業魔の前では等しく「食料」である。
表の顔はC級冒険者。裏の顔は現代から来た悪魔。
二つの世界を行き来しながら、今日も黒瀬徹は淡々と狩りの準備をする。
ユーモアと静けさと、少しのダークネスを纏った、五十四歳からの第二の人生(?)が、ここから始まる。