あらすじ
高橋渉、二十九歳。都内の出版社で文芸誌の編集をしていた。コンビニでツナサンドとタマゴサンドのどちらにするか迷っていたら、異世界の大聖堂で目を覚ました。
聖剣を引き抜き、勇者に認定された。全属性魔法適性。桁外れの魔力量。Sランク冒険者を凌駕する戦闘力。いわゆるチートというやつらしい。しかし本人は無関心だった。「断る理由がとくにない」——それだけの理由で、彼は勇者の役割を引き受けた。
冒険者ギルドの銀髪の受付嬢は、鎖骨がきれいで、手には剣ダコがあった。パーティーの剣士は陽気で、酒場で意味深なことをつぶやく男だった。治癒魔法師の少女は「人を助けたいから」という眩しい動機を持っていた。そして聖選庁の長官は、勇者を兵器としか見ていなかった。
魔王の軍勢が辺境を焼く。仲間が怒り、泣き、問いかける。「どうして何も言わないんですか」——彼は答えられない。圧倒的な力を持ちながら何事にもコミットしない人間は、いったい何なのか。
ナーロッパ異世界ファンタジーの王道構造を、徹底した翻訳調ディタッチメント文体で語る実験的小説。異世界転移、チート能力、ギルド登録、パーティー編成、ダンジョン攻略、魔王討伐——お約束はすべてやる。ただし語り手は、世界の危機よりもビールの泡のきめ細かさの方が気になっている。
読んだ人の十割が「なんかムカつく」と言えば、この小説は成功です。