あらすじ
「年収2688万円、恋愛偏差値38」
― ハイスペ男子の婚活事情 ―
スーツのポケットには
三つの名刺と
四つの案件
そして
誰にも渡したことのない
小さな花束の言葉
年収二六八八万
数字はいつも
彼の味方だった
利益率
成功報酬
企業価値
世界は
すべて計算できるはずだった
だけど
好きという感情だけは
財務モデルに入らない
---
婚活パーティーの会場
笑顔のテーブル
彼は言う
「将来的なシナジーを…」
女性は笑う
「それ、プロポーズですか?」
彼は黙る
M&Aの契約書は
百ページ書けるのに
好きです
の四文字が
どうしても書けない
---
友人たちは結婚し
子供の写真を送ってくる
彼のスマホには
データだけが増える
マッチ率
返信率
成功確率
だけど
心のグラフだけが
ずっと
横ばいのまま
---
ある日
誰かが言った
「恋って
デューデリじゃないですよ」
その言葉は
静かに
彼のExcelを閉じた
---
年収二六八八万
だけど
恋愛偏差値三十八
それでも
好きという気持ちが
もし一つ芽生えたなら
それはきっと
彼の人生で
いちばん
価値の高い
ディールになる
---
そして今日も
ネクタイを締めながら
彼は思う
企業価値じゃなく
人を好きになれる
自分になりたい
そう願う
三十二歳の朝。