あらすじ

肺を焼くような冷気と、視界を閉ざす鈍色の空。極寒のシベリアで、狩人エカは自らの体の一部である黒曜石の槍を握りしめていた。指の感覚は疾うに消え、肉が石に溶けていくような錯覚。目の前には、傷口から蒸気を噴き出し、殺気を孕んだ巨獣が対峙している。 エカは動かない。背後の仲間に指先ひとつで合図を送り、獣の死角へ滑り込ませる。静寂を破る激突。エカは一歩も引かず、獣の鼻先へ槍を突き出し、そのわずかな隙を突いて仲間が獣の顔面を粉砕する。しかし、獣の断末魔が響く中、エカの誇りであった黒曜石の槍は無残に折れ、仲間は重傷を負う。獲物を仕留めた歓喜などない。血の匂いに誘われ、闇から這い寄るハイエナの群れ。残されたのは、折れた槍と、死の足音だけだった。 絶体絶命の窮地、雪原の向こうから現れたのは、仮面を被った謎の男たち。彼らは折れた槍の断面を一瞥し、予備の黒曜石を雪に落として去っていく。助かったのではない。ただ「因果」が繋がれたに過ぎない。エカは折れた槍を、そして新たに手にした冷たい石を見つめる。この荒野では、石を磨くことは己の生を削り出すことに他ならない。奪うか、奪われるか。原始の静寂の中、剥き出しの生存本能だけが、凍てついた大地に刻まれていく。

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エブリスタ
エブリスタ2026/02/20
  • 現在の作品石の記憶