あらすじ
地方の町で旋盤工として働いていた景司は、長年勤めた工場の閉鎖によって職を失う。再就職した小さな工場も経営難で倒産し、四十を過ぎた彼は再び失業者となった。仕事を求めて職安へ通う日々の中、ついに見つけたのは東京の工場の仕事だった。寮付きのその職場へ向かうため、景司は生まれ育った町と母を残して都会へ旅立つ。慣れない都会での生活の中でも、彼は黙々と機械を回し続けた。だが長時間労働と疲労は、少しずつ彼の体をむしばんでいく。ある日、機械の前で倒れた景司は病院で過労と診断される。寮の小さな部屋で休む夜、彼の胸に浮かぶのは故郷の川や庭の柿の木、母の味噌汁の記憶だった。華やかな成功も劇的な破滅もない。だが、働き続けることで人生をつないできた男の歩みは、静かな悲しみと確かな重みを残して夜の中へ溶けていく。これは名もない労働者の、ささやかで確かな人生の物語である。